泰阜村は、長野県の南端に位置する、人口1839人の村。
全人口のうち、65歳以上は734人、高齢化率38.0%。
高齢化がすすむ将来の日本を、先取りする自治体です。
泰阜村が、在宅福祉に力を入れ始めたのは、昭和60年から。
高齢化率が約20%になり、要介護者が目立ち始めた頃のことです。
在宅福祉を推進するために、村の行政職員が共通認識としてもっていたのが
「社会の発展、村の発展に尽くした高齢者に、幸せな最後を提供するのは行政の責任」という理念。
最後まで家にいたい、死ぬ時は自宅で、と願う、介護される高齢者の気持ちを尊重し、訪問介護・在宅入浴・訪問看護などの在宅福祉と、在宅医療(往診)で
「臨終まで在宅で」を支援しています。
村では、介護を家族の責任とはせず、あくまで「行政の責任」と位置付けています。
この背景には、過疎化が進み、子どもたちが村に親を残して出て行ってしまうという現状があったこと。そして、「老いと死」についての哲学が徹底されていることがあるようです。
老いと死について、泰阜村では
①老いに対して、医療には限界がある
生物である人間は、どんなに努力しても誰もが老い、社会参加が難しくなり、多少の寝たきり状態を経て死を迎える=宿命。医療の進歩を過信し、老化や死までも克服するというのは幻想。とうぜん、死ぬまで健康というのも幻想
②多くの高齢者は入院・治療より、住み慣れた自分の家で生活を望む
③だれもが老いて死んでいくという事実を受け止め、障害をありのまま受け止める。だからこそ、人間らしい老後を送り、幸せな死を迎えるお手伝いをするのは、行政の責任
という考え方を、役場職員全員が共有し、
「在宅で介護を受けながら暮らし、望めば、病院でなく家で死ねる」ように、在宅福祉と在宅医療を充実させています。
具体的には、介護が必要になった時に、お金がなくても、家族の介護が受けられなくても、ヘルパーや訪問看護師が、必要なだけ在宅に入って支援する体制を作っているため、1人暮らしでも最後まで家で暮らせます。
ポイントは、
①介護保険の利用料を減免・介護保険で要介護度ごとに設定された限度額を超えた分は、すべて村が持つ(自己負担なし)
・介護保険を受ける時の1割負担分は、村が6割を肩代わり(自己負担は4割だけ)
(通常は、家族介護なし・すべて介護保険で在宅を支えようと思うと、限度額をこえてしまい、それがすべて自己負担となってしまうため、月に30〜50万の負担に耐えきれず、施設に入所するケースが多い)
②村営診療所での医療費は1回500円、送迎は無料・必要な医療を充分受けてもらうために、診療所での医療費は1回500円のみ。しかも、月に4回まで払えば、あとは何回受けても無料(村の診療所にかかる限りは、医療費は月2000円まで)
・車がなくて(運転ができなくて)、診療所に行けない高齢の患者のために、診療所への無料送迎を行う
③電話一本で必要な支援を出前
住民2000人という小さな顔の見える行政の利点を生かし、「困った!助けて」と役場に一本電話が入れば、すぐに職員が家まで出向き、レンタルベッドなど福祉用具を手配し、必要ならヘルパーをすぐに派遣。
(通常は、介護保険を使うために、要介護認定を受けるという手続きを踏みますが、泰阜村の場合は介護保険の利用限度額がない=はみだした分は村が持つ ため、要介護度が決まるまで必要なサービスを待つ必要がないという話でした)
在宅医療のかなめは、村営の診療所です。
村営診療所のため、そこにいる医師は、村役場の職員という位置付け。
医師は一人ですが、在宅医療に力を入れており、24時間365日、いつでも(夜中でも)患者の自宅まで駆けつけてくれるそうです。
(レントゲンを撮るなど、検査などで診療所での診察が必要な場合は、無料で診療所まで送迎も実施)
平成19年度の老人医療費(一人あたり)は
全国平均 821,403円
長野県平均 687,604円
泰阜村 537,571円
下がった医療費を在宅福祉に回している、とのこと。
泰阜村の取り組みは、
住民の幸せを守るのが行政の仕事
という原点を忘れずに、真摯に追求したものだと思います。